気刊びびび

なんか気が向いたら書く。

九龍城の話

 僕の今の仕事を分かりやすく例えると、九龍城か横浜駅か梅田駅のビルメンテナンスを地図も渡されないまま一人でやってる、みたいな感じなんだけど、この仕事の何がヤバいかというと、もともとが九龍城なので、そこに何かを付け加えるとたちまちそれ自体も九龍城になっちゃうんだよね。

 例えば、なんかよく分からんけど九龍城に不具合が生じたとする。九龍城の住民から「水道が出なくなった」とか「エレベータがnull階に行ったまま戻ってこない」みたいな苦情が僕に来る。仕方がないので僕は「やだなあ」と思いながら、九龍城を手ぶらで捜索する。水道管を蛇口からじーっとたどっていったり、エレベータの階数表示を司る歯車とにらめっこしたり。数時間後にようやく「あー、ひょっとしてここが原因か?」という箇所を発見し、何かあったらすぐに元に戻せるよう写真を撮ってから、水道管の穴をパテで塞いだり、歯車の歯ををやすりで2つ削り落としたりする。水道は出るようになり、エレベータも元通り1階から32767階までを行ったり来たりするようになる。

 一ヶ月後、また苦情が来る。「先月までは大丈夫だったのに、今月になって水道が出なくなった」とか「エレベータが37階から124階までの間にいっさい止まらなくなった」とか。僕は「やだなあ」と思いながら九龍城を手ぶらで捜索する。数時間後に「あっ!」と叫ぶわけだ。水道管はもともと小さな穴が空いていたおかげで水圧がある程度発散されて、さび付いた箇所も問題なく導水していたのが、穴がなくなったせいで水圧が上がりすぎ、さび付いた箇所がパンクしてしまっていた。エレベータは階数表示の歯車をよく見ると、歯の側面に突起があって、どうやらその突起が止まる階を制御しているようだった。歯が2つ欠けたことで、止まる階の制御がうまく動かなくなっていたらしい。どちらも実際に不具合が起こってみないとそんな実態は分かりようがない。自分のメンテナンスが九龍城に取り込まれ、僕自身に牙を剥いた格好だ。

 九龍城の最大の問題は、あまりに大きすぎてわけが分からないという点だ。まとまった地図とか部品の説明書もなく、それぞれの時代の管理人がその都度行き当たりばったりに拡張したりメンテナンスしたりを積み重ねてきて、今の姿がある。そうなってしまっては、今さら地図や説明書を作ろうとしてもそんなことは不可能に近い。仕方なく僕も行き当たりばったりにメンテナンスをすることになるんだけど、それも九龍城の闇を増やしていることになるのだ。助けてくれ。