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気刊びびび

なんか気が向いたら書く。

フォント入門I 第一回「フォントの種類、値段」

 せっかく書くことがないんだし、フォントのことでも書いていこうと思う。一度に書ききれる量には限界があるので、シリーズ化していきたい。フォントのことは本当に*1よく知らないけど、同人誌とかでフォントを使っていきたいって人向けの記事にしていく予定なので、既にある程度の知識があるよ、モリサワパスポート契約してるよ、写研大好き、という人は何も言わずにタブを閉じよう。本講義ではフォントの基礎的知識を学び、同人誌作成等に必要な理解を得ることを目標としている。評価は出席点による。

 第一回の内容は「フォントの種類、値段」です。長いですがお付き合い頂ければ。

フォントっていろんな種類があるの?

 書体を種類分けするときの一番大きな括りは、書体のジャンルでしょうね。「明朝体」「ゴシック体」といったアレです。ジャンルによって見た目のイメージとかが変わってくるので、場面によって使い分けることがほとんどです。以下に代表的なジャンルを書いておきます。

明朝体
横線は細く、縦線は太い。縦横の線の始まりがやや太く、横線の終わりには「うろこ」とよばれる三角形の飾りがある。長文を読むのに適していて、小説の本文なんかに使われる。真面目な印象もあるので会社や役所の公式書類にも使われがち。
ゴシック体
横線と縦線の太さがほぼ同じ。うろこもない。見た目のインパクトが明朝体より大きいので、見出しなどに適している。明朝体より少しくだけた印象もあるので、雑誌の本文にも使われがち。
丸ゴシック体
横線と縦線の太さがほぼ同じで、線の始まりと終わりが丸い。見出しなどに向いている。ゴシック体よりも柔らかい印象を与えるので、誰を対象にした見出しかなどを踏まえて使い分ける。
教科書体(硬筆体)
明朝体やゴシック体は「令」や「辶」などが実際に鉛筆で書くときの形と違う。教科書に使った時に「どっちが正しいの?」とならないよう、鉛筆で書く時の形に合わせた書体。
筆書体
行書や草書など、筆で書いたような見た目を再現した書体。年賀状や賞状などによく用いられる。
ポップ体
ゴシック体や丸ゴシック体をかわいらしくアレンジした書体。マンガやライトノベルのロゴによく使われる。「なんか印象が柔らかくなる」という理由で、公務員や中小企業が何も考えずに作る掲示物の見出しなどにも頻繁に登場。
アンチック体
明朝体のようなうろこがあり、横線が細く縦線が太いという特徴はあるが、明朝体に比べて太さの差が少ないかな書体。ゴシック体の漢字と合わせてマンガの吹き出しに使用することが多い。
デザイン書体
以上のどれにも当てはまらないような、独特な書体。広告やロゴなんかに用いられることが多い。

 このジャンルの下に、例えば明朝体なら「MS明朝」や「ヒラギノ明朝」「リュウミン」のような書体がわらわらと存在するわけです。現在日本に出回ってる日本語の書体は、漢字の使えるものだけで大ざっぱに計算して2000くらいあるんじゃないかなと思います。結構多い!

 なお、2000書体がすべて違う書体かというとそうではなくて、「ファミリー」という括りが存在します。これは「同じ書体なんだけど、太さが違う」というもの。Wordとかだと「太字」ってボタンを押せば勝手に太字になりますが、実はあれは勝手に輪郭線をつけて機械的に太くしているだけなので、画数の多い字なんかは潰れて読めなくなっちゃうんですね。それを防ぐため、フォントメーカーがちゃんと作ったフォントにはもともと太さのバリエーションがあるわけです。ヒラギノ明朝ならW2、W3、W4、W5、W6、W7、W8の7種類もの太さがあるんですね。

フォントって有料なの?

 街中でよく目にする本やチラシ、看板なんかに使われている書体は、十中八九が有料のものです。気になるのはそのお値段。ひらがなとカタカナが入って、漢字もしっかり使えるフォントとなると、1書体25000円くらいが相場です。さきほど「ファミリー」の話をしましたが、フォントは太さごとに別のファイルとなるため、それぞれ別々に買わなければなりません。つまりヒラギノ明朝の7種類を全部集めようとしたら、25000×7=175000円もかかってしまう計算!

 もちろんみんながみんなそんな大富豪ではないので、中には「うちが作ったフォントは年間50000円で全部使い放題だよ」という商売をしているメーカーもあります。1年間で50000円は結構高いようにも思えますが、1書体の相場が25000円であることを考えると、安くも思えてきます。複雑な気持ちですね。「モリサワ」「フォントワークス」「タイプバンク」「イワタ」「ニィス」「ダイナフォント」などのメーカーがそういった年間定額プランを用意しています。

 そもそも何でそんなにフォントは高いのか。実は英語のフォントだと1書体の相場は4000円ほど。日本語フォントが理不尽に高いようにも思えますが、英語フォントがアルファベットや記号、ドイツ語などで使う文字なども含めて多くても600字ほどしか入っていないのに対し、日本語フォントは漢字も含めると15000~20000字も収録しなければいけません。そう考えると、なんか25000円って安すぎる気がしてきた……。

無料のフォントもあるの?

 もちろんすべてのフォントが有料なわけではありません。なかには無料のものもあります。しかし、先ほども書いたように漢字まですべて収録しようとすると15000字以上のデータを作らなければならなくなってしまい、それを無料で公開するのはかなり厳しい。世に出回っている無料フォントもそのほとんどがひらがなやカタカナのみだったり、漢字は高校までで習う程度のものに限られていたり。

 MS明朝は無料で使えるじゃん、と思う人もいるかもしれませんが、あれも実際には有料のフォント。リョービ*2というメーカーが作った「本明朝」という有料のフォントを、PCで見やすいように改変したものをWindowsに搭載しているだけなんです。結局Windowsをお金出して買わなきゃ使えないわけで、純粋に無料とは言えないですよね。世の中には無料のOSでがんばってる人もいるわけなんだし。それに一昔前までは「会社の外部文書や出版物みたいな、商用目的の文書にMS明朝を使う場合は、別途お金を払わなきゃいけない」というのが定説でした。今は商用利用であっても無料で使えるようですが*3

 しかし、なかにはすごい奴もいます。それが「IPA明朝」。このフォントを作ったのは情報処理推進機構という国の外郭団体。要するにお役所です。彼らは考えました。「まともに漢字まで使えるフォントを使おうとすると、どうあれお金を払わなきゃいけない。誰にでも無料で使える日本語フォントが必要だ」と。やるじゃん情報処理推進機構。そうして彼らが世に出したのが「IPA明朝」なんです。ちなみにこのIPA明朝、タイプバンクというメーカーが開発を担当し、「TB明朝」という有料フォントが元になっています。やるじゃんタイプバンク。

 その後、IPA明朝は数度のバージョンアップを重ね、さらには「書体のデザインを改変してもいいよ」とまで言い出しました。すごいぞ情報処理推進機構。そのおかげで、IPA明朝をもとにした「はんなり明朝」「あおぞら明朝」などのフォントが有志の手によって作られていきました。

 また、それとは別のアプローチで漢字入りの無料フォントを作った例があります。「花園明朝」は、GlyphWikiという漢字の字体をみんなでデータ化していくWikiの成果を元に作ったフォント。Wiki字体がみんなのものなんだから、そこからできたフォントもみんなのものという寸法です。「源ノ角ゴシック」はAdobe社*4*5が「誰にでも使えるフォント」の重要性に気づいて作った無料のフォント。日本語の漢字をイワタというメーカーが担当していて、太さも豊富なのがポイントです。

今回はここまで

 以上、長々とフォントの入り口でウロウロしてきました。次回は「フォントの名前、ライセンス」について書いていけたらいいですね。

*1:このように注釈をつけると読者諸氏は「意図的なダジャレかな?」と思うだろうが、これはまったく偶然の産物なのである!

*2:初稿時に誤ってリコーとしていました。本明朝の開発はリョービで、本明朝を元に改変したのがリコーです。

*3:ゆず屋: [豆知識] MS明朝、MSゴシックは(今は)商用利用できる

*4:Twitterで「オープンソースの重要性に気づいたのはGoogleでは」との指摘がありましたが、源ノ角ゴシックはGoogleもパートナーとして共同開発はしたもののAdobeが中心にいたこと、フォント自体もAdobeにより発表されていること、源ノ角ゴシック以前からAdobeは単独でSource Sans ProやSource Serif Proなどのオープンソースフォントをリリースしており、源ノ角ゴシックもその系譜にあるものであり、Googleが牽引したとまでは言いがたいことから、Adobe社を主語としています。この認識について誤りがございましたら平にご容赦ください。

*5:追記:このことについて指摘者の方より補足がありました。オープンソースでの汎CJKフォント自体はもともとAdobeの計画でしたが、それに対して共鳴したGoogleが強力に支援したという流れとのことです。https://twitter.com/o_tamon/status/630784632477253633