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気刊びびび

なんか気が向いたら書く。

扶桑社『あかんメール』における無断転載について

報告 思ったこと

 株式会社扶桑社の出版物において、僕のツイートが無断転載されていた問題で、扶桑社に抗議し一定の合意に至りました。この記事ではその簡単なご報告と、同様にネット上に公開した著作物を無断転載された方に抗議方法の一例を見せることで、泣き寝入りせずに「例えばこのように行動すればいい」という道のりを提示します。出版社からの無断転載被害に遭っている方は、この記事を参考にしていただければ幸いです。

経緯

 株式会社扶桑社(以下、扶桑社)は2014年11月10日初版第1刷発行の『あかんメール』(『あかんメール』選定委員会・編)において、Twitter上で皆月蒼葉(以下、皆月)のTwitterアカウント@m_sobaのツイート*1を、ほぼ完全にコピーする状態で無断転載していました。以下に元ツイートと掲載された文面をそれぞれ転記します。

今月から別の部署に異動になったわけですが、新しい配属先の人に「お疲れ様です」とメールを打とうとしたのに、予測変換のせいで間違えて「愚かなる人類め……」って送信しちゃって、配属2日目にして「魔王」ってあだ名をつけられる羽目になった僕の気持ちが!! あなたに!! 分かるんですか!!!

https://twitter.com/m_soba/status/242276925358370816

今月から別の部署に異動になったわけですが、
新しい配属先の人に
「お疲れ様です」
とメールを打とうとしたのに、予測変換のせいで間違えて
「愚かなる人類め……」
って送信しちゃって、配属2日目にして
「魔王」ってあだ名をつけられる羽目になった僕の気持ちが!!
あなたに!! わかるんですか!!!

扶桑社『あかんメール』初版第1刷、32ページ

 この書籍の出版に先立ち、扶桑社編集部のTwitterアカウント*2から@m_sobaに対し転載許可を求めるリプライが2回送られています。2回目は「10月14日までに返答が欲しい」という期限付きのものでした。ただし、@m_sobaアカウントは全体に向けたツイートのみを行うという運用方針のため、連絡等はサブアカウントである@n_sobaに行うよう、@m_sobaの紹介文にも記載しています*3。扶桑社はそれを無視したということになります*4

 かつ、扶桑社のアカウントは別のTwitterユーザーに対しては「10月14日までに返答がない場合、転載許可とみなす」という旨の連絡もしています*5。「転載拒否の連絡がなければ承諾とみなす」という手法には明らかな瑕疵があるうえ、皆月に対してはその旨の連絡すらありませんでした。以上のことから皆月は不信感を覚え、サブアカウントから扶桑社に対して掲載拒否の通告をしています*6

 にもかかわらず、出版された『あかんメール』には皆月のツイートが無断で掲載されていました。11月25日にメールと電話で扶桑社に抗議、11月30日に扶桑社の担当者と直接会合し、謝罪と提案を受け入れることで合意しました。提案の内容は、扶桑社のWebサイトやSNS等で謝罪文を公表する、次版以降については皆月が著作権を有する文面を削除するというものです。

無断転載に遭った時はどうするか

 扶桑社は『あかんメール』の他にも『おかんメール』や『ジワジワ来る凸凹』など、インターネット上からネタを集めた書籍を多く出版しており、今回の件以外にも無断での転載があることは想像に難くありません。また、その他の出版社でも、宝島社『ネコでプッ!』など同様の本は枚挙にいとまがありません。そして問題なのは、そういった無断転載に対し、実際に著作権を持つ人間の多くが「相手は企業だし、太刀打ちできない」と泣き寝入りしてしまっているのです。

 なので今回、僕は扶桑社への抗議をするにあたって「無断転載された人に抗議の方法を教え、また抗議すれば企業は謝罪するという前例を作る」というのを第一の目的にしました。本当は会合中にA4用紙4枚に及ぶ大量の質問をしていて、その回答を抗議の際の参考材料としてすべてブログに掲載しようとしていたのですが、なにやら会合に際して守秘義務というものが発生するらしくて、掲載は断られました。守秘義務が発生するなんて聞いてないぞという感はあるにはあるのですが、会合前に「録音するのが会合に出る条件」とは提示しても「内容を公開するのが条件」とまでは言ってなかった僕にも落ち度があるなあと思い、公開を差し控えています。念のため付言しておくと、会合中の扶桑社担当者は極めて誠実な対応をしていたと感じます。

 なのでメールの文面や会合で質問した内容などは公開することができませんが、一般論としての抗議の方法、質問すべき事項などはここに書けるはずです。なので書いていきましょうね。

抗議の方法

 出版社の窓口としては、電話やメール、直接訪問などの他にTwitterやFacebookなどのSNSがあります。ただし、SNSを通じて抗議するのはやめた方がいいです。企業の人間は基本的にSNSの反響とか見てないですから。Twitterでどれだけ抗議のリプライを送ろうが、数あるノイズの一つとして無視されてしまいかねません。また、直接訪問もやめた方がいいでしょう。担当者が不在なことも多いですし、そもそもお互いに準備不足な状況では前提のすりあわせ(無断転載が事実なのかどうかなど)ができておらず、担当者と話したところで実りのない結果に終わりかねません。

 お勧めなのはメールです。メールならゆっくりと時間をかけて過不足のない文面を作り上げることができますし、形にも残ります。メールの文例をこの記事の最後に掲載するので、参考にしてください。ただし、メールだけだと相手企業の規模などによっては反応がひどく遅かったり無視されたりしかねないので、送信後に電話で「先ほどメールを送ったものですが、文面にもあるとおり私の著作物が貴社出版物にて無断転載されているのですが」と伝えましょう。これなら相手も無視することはできませんからね。

 注意しなければならないのは、「あくまで冷静に丁寧に」ということです。心情的には「なに人の著作物で金儲けしとんじゃこのアホンダラ」と暴言も吐きたくなるような状況ですが、恫喝はこちら側を不利にします。あくまで丁寧に論理的に、相手の落ち度を冷静に指摘していくのを心がけましょう。

質問すべき事項

 電話なり直接会合なりで担当者と話す機会ができればこちらのものです。この時に重要なのは、「無断転載は明確な不法行為である。企業としてそれに対しどのように責任を取るのか」を明示させることです。ただしこの時も、「オゥオゥ兄ちゃん、やってくれたのォ。1000万払うまでワシャ許さんけェのォ!」と恫喝でもすれば、こちら側が一転して不利になってしまいます。恐喝罪ですからね、それ。心情的には納得いかない部分もありはしますが、要求できるのは「本来当然得るべきだった利益の補償」のみ。それ以上の不当な要求は相手を硬化させるだけです。

 まず最初に聞いておいた方がいいのは、「今回の無断転載はなぜ起こったのか」ということです。これを聞くことで、相手企業の編集がどのような体制なのか、著作権に対してどの程度の意識を持っているのかを知ることができます。法務担当者や担当編集の上司は事実を認識していたのか。担当編集や上司は問題がある行為だと認識していたのかなど。

 次に聞くべきは、「全社的な著作権に対する意識」です。無断転載は明らかに著作権法上の不法行為ですが、それに対して編集部全体でどの程度の意識を持っているのかを明確にさせます。例えば無断転載の起こった編集プロセスは、全社的に共有されているものなのか、あくまで今回のみのイレギュラーなのか。普段は他者の著作物を転載する際にどのような方法で許可を得ているのか。全社的なセミナー・講習会など法令遵守意識を社員に持たせる機会は存在するのかなど。

 そして、それらを踏まえた上で「今後、社として法令遵守の観点からどのような対応を行っていくか」という質問もすべきでしょう。社員に対する教育を徹底するための施策などは考えているのか。今回以外の無断転載事例が著作権者本人からの抗議・指摘で明らかになった時、どのように対応していくのか。著作権者本人以外の第三者からの批判・指摘で発覚した場合はどうか。今回以外の無断転載事例について、社内で調査する予定はあるのかなど。

 こういった事項は、あくまで補償のみを求めるのであれば聞く必要がないでしょう。ただし、こういった質問をすることで、相手方に「明確な法的問題のある行為だった」と認識させることができます。その認識がなければ相手企業はまたやらかすかもしれませんし、逆にその認識がはっきりと存在すれば、次に書く補償の問題についても切り込みやすくなります。

 最後に補償の問題です。僕は今回「謝罪文の掲載」と「次版以降からの文面削除」で片をつけました。他にも金銭的補償を要求することは可能なはずです。ただし、その場合も「当然得られるべき利益の補償」という観点から、原稿料相当額や印税相当額が上限になるんじゃないかなあとは思いますが。要求の方法や理屈によってはそれ以上も可能なのかもしれませんが、正直相当面倒な戦いになります。で、原稿料相当額や印税相当額ですが、原稿料については出版社によって基準がまちまちで一概には言えません。ただ、印税については前者共通のルールがあるので、それについて軽く説明しておきましょう。

 出版社に勤める知人に聞いたところ、1冊あたりの印税は書籍本体価格の10%。そのうち何ページ分使われているか、著作権者が何人いるかなどいくつかの基準で割合計算します。ネットから無断転載するような本だと、たいていは著作権者が何人いるかでの判断は難しいと思われるので、ページ数の割合で出すことになるんじゃないかな。たとえば200ページの本で、本体価格1000円、発行部数が1万部として、そのうちの1ページで無断転載されていたとすると、1000円×10%×10000部で印税総額が100万円、そのうちの200分の1になるので5000円です。うわあ、はした金。まあでも本とはそういうものです。僕も昔は印税収入に憧れていたよ……。ともあれ、通常は要求できてもその程度でしょう。お金に関してはあまり期待できません。あくまで相手に非を認めさせることを目標にするといいでしょう。

 繰り返しになりますが、あくまで「丁寧に、冷静に、論理的に」を意識しましょう。これが欠けてはまともな議論もできませんし、最悪の場合は補償を得るどころか逆に補償する側に回ってしまいかねません。論理的に攻める自信がない場合でも、過度の上から目線や対決姿勢は控えるべきです。丁寧に、誠実に、対話の糸口を探っていきましょう。そんなに難しいことではないはずです。

 以上、もしあなたが無断転載にあったらどうするかという体裁でお届けしました。明日は我が身、備えよう。

抗議メールの文例

××社
○○○○と申します。
このたび、貴社の出版物において私の著作物の無断転載が見受けられましたので、
ご確認いただきたくお願いのメールを差し上げます。

無断転載があったのは、貴社yyyymmdd日発行
△△△△△』(□□□□・著)です。

△△△△△』のnnページに、私がインターネット上で(Webサービス名、ブログ名等)に投稿した
文章(画像)とほぼ完全に一致する文面(画像)が存在します。
(文章の場合、「以下に転記します」と断って転記してもよい。)

また、無断転載元と思われる私の文章のURLは以下になります。

(URL)

見比べていただければ分かるとおり、両者の内容は
ほぼ完全に一致していて、無断転載であると判断するほかありません。

私は××社及び□□□□に対し、ツイートの転載は
一切許可しておりません。今回の件については、明確な著作権侵害であると考えます。

この件について、貴社はどのように考えているのでしょうか。
明確かつ誠実な回答を求めます。

○○○○

*1:https://twitter.com/m_soba/statuses/242276925358370816

*2:https://twitter.com/akan_mail

*3:「ご用の方はサブアカウント(@n_soba)まで。」(https://twitter.com/m_soba

*4:株式会社グラフィティの発行する雑誌「東京グラフィティ」からの掲載許可を求める連絡は@n_sobaに送られています。

*5:https://twitter.com/akan_mail/status/520430912064864256

*6:https://twitter.com/n_soba/status/522328032648781825